ライトノベル/ライト文芸
『シャドウ・アサシンズ・ワールド ~影は薄いけど、最強忍者やってます~』(空山トキ/講談社ラノベ文庫)百合度☆☆/深度☆☆は、ゲームを通して、まったくタイプの違う女の子どうしが仲良くなっていくお話。しょっちゅう存在を忘れられるほど影の薄い女子高生・如月小夜は、プレイヤーの職業がすべて暗殺者という異色のVRMMORPG《シャドウ・アサシンズ・ワールド》に出会い、なぜかゲーム内でも発揮された存在感の無さを活かして、トッププレイヤーにのし上がります。ある日、ゲーム内で初心者のプレイヤー・ヒカリを助けたクロは、ヒカリにすっかり懐かれてしまい、仕方なく弟子にします。ところが、ヒカリは、校内では有名なクラスメイトの朝川明美ということを知り、師匠として慕ってくれる明美が、現実の小夜を見て幻滅したらどうしようと戦戦恐恐しつつ、以降、ゲーム内では師弟、学校では、人気者とぼっちの二重生活が始まります。現実世界では、ずっと存在を忘れられてきて、いつしか他人に期待しなくなっていた小夜が、そんな小夜を見つけてくれた明美に心を開いていき、逆にゲーム内ではクロがヒカリを引っ張っていく――真逆のふたりが、正反対の関係を通して絆を結んでいくのが爽快で、気持ちのいい作品です。
『人妻教師が教え子の女子高生にドはまりする話』(入間人間/電撃文庫)百合度☆☆☆/深度☆☆☆は、タイトル通りの教師×生徒のGL。教師の苺原樹は、夜の繁華街で生徒の戸川凛を見かけて注意して以来、凛に目をかけるようになります。序盤こそは、特定の生徒をひいきしては……と思い悩みつつも、凛に懐かれて、無自覚にはしゃいじゃってる樹が微笑ましくもあるのですが、中盤から一気にギアをシフトし、好意を露わにしてくる凛に対し、引き返せと叫ぶ理性をよそに、想いが溢れていく樹の心理描写がスリリングです。『私の初恋相手がキスしてた』の主役のひとりだった星高空が、凛と樹を繋ぐ接点としてなにかと顔を出しています。本作をお読みになる方なら、すでに読まれている方も多いでしょうが、どうしてこんな人間が出来上がってしまったのか、該当作を読んでみれば納得せざるを得ないかと思います。
『獄門撫子此処ニ在リ (3) 修羅の巷で宴する』(伏見七尾/ガガガ文庫)百合度☆☆/深度☆☆☆は、撫子の従妹・芍奈と、その母・牡丹が登場し、獄門家の当主の座を巡って争います。撫子とアマナの支え合う姿も描かれますが、今回は芍奈と従者の菊理塚みまかの関係が強烈な印象を残します。
先月の短編集と2か月連続刊行になったシリーズ最新作『転生王女と天才令嬢の魔法革命 (9)』(鴉ぴえろ/富士見ファンタジア文庫)百合度☆☆/深度☆☆☆は、新章が開幕。西部の腐敗貴族を一掃し国内の不協和音を鎮めたアニスとユフィが、今度は隣国の帝国と対峙することになります。アニスフィアの暗殺計画が持ち上がったり、皇帝にふたりの起こした魔法革命に対する覚悟を問われたり、緊迫した場面もありますが、ふたりの甘いやりとりもしっかり描かれています。
『放課後の教室に、恋はつもる。』(日日綴郎/富士見ファンタジア文庫)百合度☆☆☆/深度☆☆☆は、教師×生徒の百合作品。女子生徒の上原メイサが教師の筧莉緒に抱く恋心、自身が生徒だった時に同性の教師に抱いた叶わなかった想いを引きずる筧が、メイサに対して教師と生徒としてきっちり一線を引きつつも、自分の中でしだいにメイサの存在が大きくなっていく過程が描かれ、ふたりの心の動きをていねいに描いた地味ながら滋味もある良作です。ただし、メイサの元カレによる脅迫・つきまとい行為の描写があるののにはご注意ください。犯罪行為に対して厳密な処分が課されないことも納得できるものではないのですが、それ以上に相手側に一切の非があるにも関わらず、一度は付き合ってしまった自分にも原因があると思い詰めるメイサに対するケアがないことに対して憤りを覚えます。男子生徒の数々の差別的言辞に対して、助長する意図はないにしても、断固としてNOを突き付ける姿勢は見せていただきたかったです。私は男性がストーリーに絡んでくる是非は問いませんが、たとえば、過去に女子生徒から告白されて、軽い気持ちで付き合ってみたけれど……というような展開でも充分成立したんじゃないでしょうか?
『けもみみ巫女の異世界神社再興記 神様がくれた奇跡の力のせいで祀られすぎて困ってます』(いつきみずほ/富士見ファンタジア文庫)百合度☆/深度☆は、実家の神社の巫女として働く女子高生・御守涼香が、異世界で忘れられた神様の信仰を取り戻すために奮闘するというお話。その過程で、ブラックな体制の宗教団体から救い出したソティエ―ル、村長の娘・アンリらと協力関係を結んでいきます。この作者の女性同士の関係を描いた作品にしては珍しく、ソティから涼香への感情の熱量が高く、GL展開もあるかと思いましたが、ラストまで読むと、これまでと同様、ガールズラブは書かないという作者の意志が見えます。恋愛感情は抜きでも仲の良い女の子どうしのやりとりをみれたら嬉しいけれど、ラストの涼香の言いぐさは、「思春期の同性への恋愛感情は一過性のもの」と言ってるのと大差ない気がして、ちょっとどうかな……。
『死亡遊戯で飯を喰う。 (7)』(鵜飼有志/MF文庫J)百合度☆/深度☆は、いつものデスゲーム空間を飛び出し、幽鬼が日常で暴走族同士の抗争に巻き込まれる異色作。殺し屋の少女との勘違いから始まるすれ違いコメディがあったり、同じアパートの住人や幽鬼が通う通信制高校のクラスメイトとの関りが描かれます。いつもどおり主な登場人物はほぼ女性だけなので、ちょっと殺伐とした日常系百合コメディみたいな趣があります。
『最強ポーター令嬢は好き勝手に山で遊ぶ ~「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた~』(富士伸太/MFブックス)百合度☆/深度☆は、婚約者にフラれたカプレーと、その婚約者を寝取ったマーガレット――最悪の出会い方をしたふたりが、登山家とそれを支える職人として偉業を成し遂げていくファンタジー世界の山岳小説。カプレーは、前世で日本人女性だった頃から好きだった登山を、それにいい顔をしない婚約者の顔を立てて控えていましたが、婚約破棄を機に、未踏峰の山々の踏破を目指します。しかし、カプレーのいる世界では、信仰を集める山に巡礼というかたちで登ることはあっても、登山を目的にするという発想がないため、登山に必要な道具が普及していません。そこで、カプレーが目をつけたのが婚約者を奪ったマーガレット。最初は、慰謝料代りにマーガレットの実家の資金や人脈をあてにしていたカプレーですが、マーガレットにも登山の楽しみを伝えたり、窮屈な貴族社会に鬱憤がたまっていた者同士の共感もあり、ふたりの結びつきも強めていきます。前世で培った登山の知識と経験を持つカプレーの要求を的確に捉え、マーガレットはデザイナーとしての才能を発揮し、登山用具を開発する。二人三脚の活動が、登山に関する常識を変えていく過程が描かれています。最悪の出会い方をしたふたりが、唯一無二のパートナーとなっていくのが爽快です。
『不良聖女の巡礼 (2) 追放された最強の少女は、世界を救う旅をする』(AWaa/オーバーラップノベルス)百合度☆/深度☆☆は、不良聖女の烙印を押され放逐されたリトル・キャロルが、腹に一物を抱えた聖女たちの野望を打ち砕きつつ、瘴気に侵された世界を救っていくファンタシー・シリーズの第2弾。1巻で、キャロルに助けられ道連れとなったエリカとのふたり旅が描かれます。キャロルと自分を比べて無力感に苛まれながらも、キャロルの相棒としてふさわしい人間になろうとあがくエリカと、自分にないものを彼女のうちに見てエリカを慈しむキャロル。互いに想い合うふたりの関係が素敵な作品です。前巻に続き、道を外れていく聖女とキャロルが敵として対峙する構造になっていますが、聖女からキャロルに対する複雑な想いと、聖女に罪を重ねさせないために立ちはだかるキャロルの相手を想う心が描かれているのも印象的です。ただ、ところどころ男尊女卑的世界観が顔を覗かせるところは、ちょっとげんなりします。
一般文芸
『二人一組になってください』(木爾チレン/双葉社)百合度☆☆/深度☆は、いじめをテーマに、女子高校生たちの卒業を懸けたデスゲームを描くサスペンス。生徒ひとりひとりにフォーカスし、それぞれの友情、対立、片思いなど、さまざまな女性同士の感情・関係性が描かれています。しっかりと顔のある登場人物が描かれている分、デスゲームの不条理感も際立っています。
官能百合小説を書き続けてきた作者の『ヅォンディム』(人間無骨/書苑新社)百合度☆☆/深度☆☆☆は、裏社会に生きる女性たちの愛憎を描いた犯罪小説です。傷ついた顔の半分を仮面で覆うファントムは、カジノの客の世話をするという名目で、ギャンブルに熱中する客から高額の金を引き出す香港マフィアの末端の構成員。ファントムは、ある日、カジノを訪れた暴力団の組長の愛人・知奈の世話をすることになります。仮面の下の顔を見ても態度を変えず包み込むような愛情をもって接してくれる世話好きな知奈の暖かい人柄に触れ、惹かれていきます。しかし、彼女たちは知奈を憎む組長の娘・萬邦ユウの引き起こした暴力団の内紛に巻き込まれていきます。
引き離され窮地に陥りつつも互いを守ろうとあがくファントムと知奈。ユウがふたりに執拗に向ける悪意。ファントムとは姉妹の契りを交わしている直属のボス・劉暁雲のファントムへ向ける複雑な感情も描かれ、得意の官能描写を封じつつも(その分ヴァイオレンス描写はかなりハード)、やはり女性同士の特別な関係が描かれ、性愛を介さずとも、交わされる感情の濃度はこれまでの作品と遜色ないといえます。
ファントムが、知奈と出会ったことで、自身の忌まわしい過去と対峙し乗り越えていくストーリー、圧倒的なクライマックスのカタルシス、どこか憎めない脇役の小悪党の描き方など、映画好きな著者らしい魅せるエンターテインメント作品として仕上がっています。
『ダブルマザー』(辻堂ゆめ/幻冬舎)百合度☆/深度☆☆。うだるような夏の日、飛び込みを図った一人の娘。しかし、その母親として名乗り出たのは、互いに見知らぬ女性ふたり。最初は自分こそが母親であるといがみあっていたふたりが、ともに娘の死んだ理由を探るうちに、子を亡くした母親同士として連帯が生まれていく……百合作品としてみるなら、そういうシスターフッド的な話に読めなくもないかなという感じだったのですが、最後にこのふたりは一体なんなんだ?となるシーンがあったので、あえて採りあげました。
『私たちのおやつの時間』(咲乃月音/宝島社文庫)百合度☆/深度☆☆は、いろんな国のお菓子を通じた女性たちの交流が描かれる連作短編集。親友同士、主従など、様々な関係性が描かれますが、第五章「香夜子とモーニャの鳥のミルク」は、父親の開いている竹細工のワークショップに通うポーランド人の女性・モーニャに恋する女子高生の香夜子との関係を描いたガールズラブです。問題が起きるたびに、一瞬、弱気になるものの奮起してモーニャに近づこうと勇気を出す香夜子の姿が印象的なちょっぴりせつなくも心温まるお話です。
つづいて、紹介漏れした8月刊の作品も一点。『天満つ星』(中村汐里/小学館文庫)百合度☆/深度☆☆は、憧れの中学校に進学し、調理部に入った室本さくらが、3年生の先輩・北見ななせと組んで、お菓子コンテストのトップを目指すお話。さくらが調理部で出会ったななせは、あまり部活に顔を出さず、来ても部員たちに遠巻きにされ、ひとり不思議な替え歌を口ずさんでいる浮いた存在でした。さくらにとっても最初は近づきがたい存在でしたが、一度、同じグループでお菓子作りを経験した後の夏休み明け、さくらは東京都の中学生を対象にしたお菓子コンテストの相棒として、ななせから指名されます。部内ではななせに対する当たりの強い空気が支配するなか、自分ものけ者にされることを覚悟しつつ、ななせを信じ指名を受けたさくら。調理の技量にも優れ、お菓子作りにかける情熱も人一倍あるようなのに、なぜ、ななせはろくに部活にも来なかったのか。さくらは、ななせが誰にも明かさずに抱えていた事情を知り、より強くコンテストの優勝を願うようになります。さくらの友人関係や母親との関係も描かれ、ふたりのストーリーが占める割合はそれほど多くないですが、不安と信頼の間で揺らぎながら、しだいに固まり強めていくさくらのななせを想う気持ち、ななせが、さくらにだけ本心を隠せなくなってしまう場面など、端々で印象に残るシーンがありました。
児童書/YA
少女小説界のレジェンドのひとりで、現在は児童作家としておもに活躍している著者による『かわいく(なく)てごめん 恋と結婚について(本気)で考えてみた』(小林深雪/講談社青い鳥文庫)百合度☆/深度☆☆は、『YA!ジェンダーフリーアンソロジー TRUE Colors』に寄稿された短編「女子校か共学か、それが問題だ!」の一年後から始まる物語。ヘテロ恋愛もののイメージの強い作家ですが、こうしてベテランが新たな取り組みとして、多様な性の在り方を描く作品に挑戦してくれたことは心強いです。終盤の百合展開は、やや唐突な気もしましたが、詳細に展開が語られるであろう次巻を待ちたいと思います。
『トモダチブルー』(宮下恵茉/集英社みらい文庫)百合度☆☆/深度☆☆☆は、友情の在り方を問う作品。周囲の皆に愛され、“クラスのヒロイン”とまで呼ばれる中学一年生の真菜。真菜は、季節外れにやってきた転校生の小鳥と、同じペンケースを使っていたことから意気投合します。やがて、なんでも真菜とおそろいにしようとする小鳥に違和感を抱きますが、それと同時に、身に覚えのないことで部活の先輩に責められたり、クラスメイトとギクシャクして、どんどん周囲から孤立するようになっていきます。
真菜は本当に気の毒なのですが、真菜に並外れた執着を抱き、巧みに追い詰めてくる小鳥のことは、どうしても嫌いになれませんでした。真菜と引き離された親友・萌のやりとりもせつないです。
しかし、真菜にとって真の敵は、真菜を取り巻く周囲の無責任な空気にあるといってもよく、いったんは表面上の平穏を得ても、一度破壊された日常が、もう二度とは戻らないことを突き付けてくるシーンは恐ろしいほど筆が冴えています。
発売日 | タイトル/作者 | 出版社/レーベル | |
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7/2 火 | あの日のあなた 中川なをみ | くもん出版 | |
7/5 金 | 日月潭の朱い花 青波杏 | 集英社 | |
7/9 火 | 彼岸花が咲く島 李琴峰 文庫化 | 文藝春秋 文春文庫 |
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7/10 水 | 少女星間漂流記 (2) 東崎惟子 | KADOKAWA 電撃文庫 |
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海岸通り 坂崎かおる | 文藝春秋 |
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7/12 金 | いなくなくならなくならないで 向坂くじら | 河出書房新社 | |
7/17 水 | ホームセンターごと呼び出された私の大迷宮リノベーション! (2) 星崎崑 | SBクリエイティブ GAノベル |
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7/18 木 | 小説 夜のクラゲは泳げない (3) 尾久ユウキ | 小学館 ガガガ文庫 |
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7/20 土 | Vtuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた (9) 七斗七 | KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫 |
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真夜中ぱんチ 日日綴郎 | KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫 |
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7/23 火 | たぶん私たち一生最強 小林 早代子 | 新潮社 | |
7/24 水 | 百合の間に挟まれたわたしが、勢いで二股してしまった話 その4 としぞう | オーバーラップ オーバーラップ文庫 |
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7/25 木 | 竜王さまの気ままな異世界ライフ (1) 最強ドラゴンは絶対に働きたくない よっしゃあっ! | KADOKAWA MFブックス |
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7/27 土 | ウィッチーズ・セレクト 二人の魔女の英雄譚 雨宮和希 | BookBase ダンガン文庫 |
その他、今年刊行された百合文芸。今後発売予定の作品はこちら