ライトノベル/ライト文芸
『小説 夜のクラゲは泳げない 3』(屋久ユウキ/ガガガ文庫)百合度☆☆/深度☆☆は、6月に最終回を迎えた同題TVアニメのノベライズ最終巻。アニメの9話から12話までを内容を収録しています。4人の少女が、それぞれとの関りと創作活動を通して自己実現に向かっていくテーマのはっきりしたシリーズでした。そのぶん、キャラクターどうしの個々の関係性については、もう少し深掘りして欲しいところはあるものの、テーマに関してはよくまとまった作品でした。
『Vtuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた (9)』(七斗七/富士見ファンタジア文庫)百合度☆/深度☆は、現在TVアニメも放送中の配信の切り忘れをきっかけにブレイクしたVtuber・淡雪を中心に、彼女の所属する事務所「ライブオン」の面々の配信活動を描くシリーズ最新刊。いつもどおりの下ネタの飛び交うカオスな配信風景に加えて、オフラインでの悩める新人を取り巻く、同期や先輩の反応が並行して描かれています。淡雪が新人の意向を尊重しつつも、悩みの解決にいろいろと手を尽くし、次回、最終巻とのことで先輩Vとしての貫禄も感じさせる淡雪の成長を描く巻ともなりました。個人的には、聖が恋人でもあるシオンにはダダ甘なのが分かるシーンが好きですね。シオンの行きすぎた妄想癖に理解を示してくれるうえに、いっしょになって遊んでくれるし、どんなにヤバい状態になってもかわいいと思ってくれる、懐が深くて、本人もアレな人で、本当にお似合いですね。
『真夜中ぱんチ』(日日綴郎/富士見ファンタジア文庫)百合度☆☆/深度☆☆は、現在放送中同題TVアニメのスピンオフ作品。動画制作に命を懸け、配信者グループ「真夜中ぱんチ」のプロデュースする真咲と、「真夜中ぱんチ」のリーダーを務める吸血鬼のりぶ。ふたりの関係を中心に、真咲と「真夜中ぱんチ」の面々の過ごす、にぎやかな日常を描いています。真咲と彼女の血に惹かれて配信者になったりぶには、チャンネル登録者数100万人を達成したら血を吸わせてもいいという約束もあるのですが、そういった打算とは関係なく、りぶから真咲に向けるまっすぐな愛情表現が読んでいて心地よかったです。そのふたりの関係以外にも、吸血鬼たちの問題行動を監督する役割を担う厳格な吸血鬼・ゆきと、その場のノリで生きているりぶ。いつも喧嘩ばっかりのふたりが、永い時間を寄り添ってきた吸血鬼同士の絆を見せるお話も印象的でした。
『百合の間に挟まれたわたしが、勢いで二股してしまった話 その4』(としぞう/オーバーラップ文庫)百合度☆☆☆/深度☆☆☆は、シリーズ1年8月ぶりの新刊。いままで苦い顔をしつつも、なんだかんだと四葉のフォローをしてきた小金崎舞に焦点をあてた巻となりました。3人交際からスタートして、姉妹間のガールズラブもあり、そのうえ幼馴染百合もと盛りだくさんなシリーズですが、今回は舞と四葉があわやというシーンもあって、あいかわらず攻めた姿勢を見せてくれます。こじれてしまった幼馴染の真希奈との関係の決着は、次巻に持ち越しということで、続刊がたのしみです。
『ウィッチーズ・セレクト 二人の魔女の英雄譚』(雨宮和希/ダンガン文庫)百合度☆☆/深度☆☆☆は、魔素と呼ばれる新物質が発見され、魔素を操る魔女が生まれてから50年、悪質な魔女による犯罪、人々を襲う魔物の発生と対抗すべく組織された「魔女教団」に所属する新人エージェント雨後晴乃と光谷闇奈のふたりの戦いを描いたファンタシー。対照的なふたりが支え合い、相手を想うがゆえのすれ違いと対立があったり、巨大感情を抱くだけでは終わらせず、きっちりと恋仲になるところなど、主人公ふたりの関係の描写もしっかり描かれているうえに、ふたりと対になるような関係性も描かれていたり、かなり満足度の高い百合作品でした。
『竜王さまの気ままな異世界ライフ (1) 最強ドラゴンは絶対に働きたくない』(よっしゃあ!/MFブックス)百合度☆☆/深度☆は、来る日も来る日もけんかの仲裁ばかりやらされて仕事に嫌気の指した竜の王・アマネが、なぜか勇者のアズサの召喚に巻き込まれたのを幸いと、異世界でスローライフを目論むも、規格外の存在のためいろいろとやらかしてしまうファンタシー作品。アズサが天音に向ける好意が明確に示されているのはよいですが、アズサのややステロタイプな描写が気になります。このままアズサの恋愛感情がギャグとして消費される展開になると辛いので、少しづつでもいいので、ぜひとも進展して欲しいもの。
『少女星間漂流記 2』(東崎惟子/電撃文庫)百合度☆☆/深度☆☆は、荒廃した地球を飛び出し、移住先の星を求めて宇宙をさまようワタリとリドリーふたりの遭遇する出来事を描いた連作短編シリーズの続刊。1巻に比べると、ふたりの結びつきの強さを感じさせるエピソードが枯渇気味な一方、粗雑な百合パロディが増えてきたという印象。あからさまな差別表現こそないので、頭を空っぽにして読む分には楽しめますが、根底にあるものを思うと、いくらイチャイチャされても素直には喜べないですね。
『ホームセンターごと呼び出された私の大迷宮リノベーション 2』(星崎崑/GAノベル)百合度☆/深度☆は、本格的にダンジョン経営に乗り出して、他の登場人物が増えた分、主人公・マホと、マホを召喚したフィオナのやりとりは減り、あちこちから引っ張りだこになったマホに、フィオナが独占欲を滲ませるシーンがわずかにあるだけにとどまりました。
一般文芸
『日月潭の朱い花』(青波杏/集英社)百合度☆☆/深度☆☆☆は、『楊花の歌』に続く第二作。女性が女性に向ける感情のひとつとして恋愛感情があることを、当然のこととして描いているところ、シスターフッドか恋愛かで分けられない関係性を描く作風は貴重だと思います。『楊花の歌』と、かなり重なるモチーフが多いものの、現代と過去の視点を行き来する構成を取り、主人公となる女性ふたりの関係性に前作とはまた違った光を当てています。
芥川賞候補にもなった『海岸通り』(坂崎かおる/文藝春秋)百合度☆/深度☆は、希薄な人間関係しか築けず孤立する日本人女性と、故郷を離れて日本で働く女性との間に訪れる連帯の瞬間を捉えたシーンが印象的な作品です。
同じく芥川賞候補となった『いなくなくならなくならないで』(向坂くじら/河出書房新社)百合度☆☆/深度☆☆は、ポエトリー・リーディングのユニット「Anti-Trench」としても活動している歌人・向坂くじらの初小説。大学生の時子の下に、ある日突然、亡くなったはずの親友・朝日から連絡があり、行くあてのない彼女を自室に住まわせます。やがて、時子は朝日とともに実家に移り住みますが、家族の間にも入り込み、過去の思い出の中にあった彼女の姿をも侵食してくるかのような朝日の態度に、次第に時子は苛立ちを募らせていきます。朝日に対する憎悪と愛情の間で揺れ動く時子の心理描写が緊迫感をもたらし、カタストロフへと導きます。
『たぶん私たち一生最強』(小林早代子)百合度☆/深度☆は、親友同士で一生を共にしようとする4人の女性を描いた作品。既存の結婚、家族観に一石を投じるパワフルな作品です。
ここから先は6月に発行された2作品も併せてご紹介します。
『言霊の幸う国で』(李琴峰/筑摩書房)百合度☆/深度☆は、著者の体験を取り入れ、現実に蔓延るトランス差別に抗する大著。芥川賞を受賞したレズビアンの作家・Lを襲う数々の受難が描かれます。悪意の奔流にただ身を竦めることなく、差別者の言動、背景にあるものを冷静に受け止め、思考し、言葉として形にすることで見えてくるものがあると気づかされる、文学の力というものを感じさせてくれる作品でした。なお、7月は芥川賞受賞作『彼岸花が咲く島』が文庫化されています。
『精霊を統べる者』(P・ジェリ・クラーク/東京創元社)百合度☆☆/深度☆☆☆は、エジプトを舞台にした歴史改変SF。姿を消した伝説の魔術師・アル=ジャーヒズが解き放ったジン(精霊)が、人々に交わって生活し、ジンの魔法と科学の融合により列強と肩を並べる存在となったエジプト。魔法の不正使用を取り締まる魔法省のエージェントの女性・ファトマが、恋人の女性・シティ、同僚の らとともに、アル=ジャーヒズを名乗る謎の人物が引き起こした事件の謎を追います。
世界観にも圧倒されますが、舶来もののスーツを身にまとい颯爽と闊歩するファトマと、鋭い爪で敵を切り裂く、優れた身体能力を持つミステリアスな美女シティ。ふたりのカッコいいアクション・パート、キュートな恋愛描写も堪能できます。誰とも組まない一匹狼だったファトマの押しかけパートナーとなったハディアは、カラフルなヒジャブをまとい、女性解放運動の闘士でもある現代的な女性。最初はハディアをうっとうしがっていたファトマも、次第にハディアの能力を目の当たりにして、じょじょに頼れる相棒として認めていく過程も描かれています。
児童書/YA
6月発行の『七月の波をつかまえて』(ポール・モーシャー/岩波書店)百合度☆☆/深度☆☆☆は、父親が家庭を去ってから、あらゆるものに対して臆病になっている12歳の少女・ジュイエが、夏休みに訪れた海辺の町で、太陽のように明るい女の子・サマーに出会うガール・ミーツ・ガール。積極的に声をかけてきたサマーに、最初はちょっと反発もし、気後れしていたジュイエですが、サマーに誘われてサーフィンに挑戦したりしながら、ふたりで夏を過ごすうちに、親密になっていく様子が描かれます。やがて、自分の殻に閉じこもっていたジュイエを引っ張り出してくれたサマーにも、抱え込んでいる事情があることも明らかになってきますが、その間にも夏休みの終わりは近づいてきて……ちょっぴりせつなくて、甘酸っぱい、青春のきらめきを詰め込んだ宝箱のような本作。ジュイエの視点による語り口は小気味よく、あたたかい町の人々との交流なども描かれる、とても気持ちのいい作品でした。
発売日 | タイトル/作者 | 出版社/レーベル | |
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7/2 火 | あの日のあなた 中川なをみ | くもん出版 | |
7/5 金 | 日月潭の朱い花 青波杏 | 集英社 | |
7/9 火 | 彼岸花が咲く島 李琴峰 文庫化 | 文藝春秋 文春文庫 |
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7/10 水 | 少女星間漂流記 (2) 東崎惟子 | KADOKAWA 電撃文庫 |
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海岸通り 坂崎かおる | 文藝春秋 |
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7/12 金 | いなくなくならなくならないで 向坂くじら | 河出書房新社 | |
7/17 水 | ホームセンターごと呼び出された私の大迷宮リノベーション! (2) 星崎崑 | SBクリエイティブ GAノベル |
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7/18 木 | 小説 夜のクラゲは泳げない (3) 尾久ユウキ | 小学館 ガガガ文庫 |
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7/20 土 | Vtuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた (9) 七斗七 | KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫 |
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真夜中ぱんチ 日日綴郎 | KADOKAWA 富士見ファンタジア文庫 |
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7/23 火 | たぶん私たち一生最強 小林 早代子 | 新潮社 | |
7/24 水 | 百合の間に挟まれたわたしが、勢いで二股してしまった話 その4 としぞう | オーバーラップ オーバーラップ文庫 |
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7/25 木 | 竜王さまの気ままな異世界ライフ (1) 最強ドラゴンは絶対に働きたくない よっしゃあっ! | KADOKAWA MFブックス |
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7/27 土 | ウィッチーズ・セレクト 二人の魔女の英雄譚 雨宮和希 | BookBase ダンガン文庫 |
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