日月潭の朱い花

書誌情報

タイトル:日月潭にちげつたんの朱い花
著者:青波杏あおなみあん
装画:谷小夏
装幀:アルビレオ
発行日:2024年7月10日
発売日:2024年7月5日
出版社:集英社
ISBN:9784087718676
版型:四六判上製
初出:「小説すばる」2023年11月号~2024年1月号
   連載時「日月潭リーユエタンの朱い花」を改題

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25歳のサチコは、不条理な派遣労働から逃れるように亜熱帯の台湾に渡り、偶然再会した在日コリアンのジュリと、台北の迪化街で暮らしていた。
誕生日の晩、サチコが古物商の革のトランクのなかに日本統治時代の台湾を生きた女学生の日記をみつけたことから、ふたりの生活は一変する。
普段は引きこもっていたジュリだったが、その日記を書いた女学生の行方調査に夢中になり、やがて大きな謎につきあたった。
それは、70年以上前、深山に囲まれた日月潭という湖で起こった、ある少女の失踪事件だった。
遠い昔に姿を消した少女を探す旅は、いつしかふたりのアイデンティティを求める旅につながってゆく――。

引用:集英社

メモ

  百合度 ☆☆ 深度  ☆☆☆

 デビュー作『楊花やんふぁの歌』と共通する面が多いですが、戦前のストーリーだけで話が完結していた前作とは違い、今回は現代の視点から当時の事件を振り返る形に構成されているのが特徴。前作では同性愛者であることに対しての葛藤がほぼない登場人物の描き方に好感を抱きましたが、今作ではうっすらと同性愛への葛藤が描かれている場面もあり、むしろ現代の視点を持ち込んだことで、そういった面が描かれている点が興味深くもあり、残念なようにも思いましたが、前作に惹かれた最大の理由である、シスターフッドとガールズラブの間に明確な一線を引かず渾然一体となった、固定観念や異性愛規範などに囚われない作風は継承されているように思います。
 同性愛や人種差別に根ざした葛藤を抱えているぶん、明らかに惹かれあっているのに、なかなか踏み込んだ関係になれないサチコとジュリがもどかしいですが、それもまた今作のラブストーリーとしての魅力的な要素のひとつともいえるかと思います。

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