
百合ラノベ総選挙、全結果が発表されましたが、惜しくも選から漏れた作品にも、まだまだ読まれてしかるべき傑作・愛すべき作品はあるということで、隠れた名作シリーズから、単巻読み切りで手に取りやすい作品まで、特色ゆたかな作品をいくつかのセクションに分けてご紹介いたします。あなたが読みたかった百合ラノベもきっとここにあるはずです。
※書誌情報の表記例(巻数/著者・イラスト/レーベル/発表年)。巻数は2024年当時のデータを使用。
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アクション
まずは現実世界を舞台にしたアクション作品から。

いちばんにおすすめしたいのが『ここでは猫の言葉で話せ』(全4巻/昏式龍也・塩かずのこ/ガガガ文庫/2021-2024)です。
猫好きで実家は猫カフェという高校生・松風小花の通う女子校に、ロシアから転校してきたアンナ・グラツカヤことアーニャ。彼女は猫アレルギーなのに、切実に猫を必要とする事情を抱えていました。実は犯罪組織の始末屋だったアーニャは、裏切ることのできないよう一定時間内に特効薬を摂取しなければ死に至る殺人ウィルスを仕込まれていて、その唯一の特効薬が猫をモフることだったのです。
アーニャが小花をはじめとして、学校の生徒たちが憧れるコンビニ店員の久里子明良、小学生の宗像旭姫らと知り合い、彼女たちと猫の交流が描かれる日常パートでは、常に生きるか死ぬかの修羅場に生きてきたアンナの言動と、平和な日常の温度のズレがとても愉快です。そして、冷徹な殺し屋として感情に左右されることのなかったアーニャの凍てついた心が解けていくとともに深まっていく小花とアーニャの関係がじっくりと描かれていきます。
このシリーズのすごいところは、初々しい恋模様と並行して、アーニャの存在が引き寄せる裏社会に生きる女性たちに、さらにはCIAのエージェント三姉妹まで加わった、彼女たちの抗争と濃密な愛憎が入り混じる大人のガールズラブが描かれていることです。
穏やかで笑顔のあふれる日常と殺伐とした裏社会。水と油ともいえる両極端な世界観が、女性同士と猫との結びつきを介して共存しているだけでなく、相乗効果で読み手の感情を激しく揺さぶってくる唯一無二といってよい作品です。

こうしたハードなアクションとガールズラブが描かれる作品には、ランクインした『. Period』のほかにも、『ガンナー・ガールズ・イグニッション』(既刊1巻/山口隼・一色/オーバーラップ文庫/2021)があります。ハードな内容に比して、ガールズラブとしては恋愛事には疎い女性を主人公にしてその初々しい反応が微笑ましくもあり、そんなギャップも面白いですが、非情な世界を舞台にした作品だけに殺伐とした関係も描かれているのが印象的です。今後も大人の女性の恋を描いたこういった作品が増えてくれるとうれしいですね。

つづいて『ここでは猫の言葉で話せ』と同様に住む世界が違うふたりの出会いからはじまる日常と非日常が交差する作品として、非情な闇の世界を生きてきた元・ヴァンパイアハンターと、並外れて善人のギャルが出会ったら……?という『ヴァンパイアハンターに優しいギャル』(既刊2巻/倉田和算・林けゐ/GA文庫/2023-)もとても楽しい作品です。吸血鬼を滅ぼし、高校に復学した元・ヴァンパイアハンターの銀華は、ギャルの琉花と出会います。戦いしか知らない銀華に琉花はいろんな日常の楽しみを教えていきます。一方、滅ぼしたはずの吸血鬼の残党が蠢き、銀華は瑠香と過ごす日常を守るため送り込まれてくる刺客と戦います。光と闇、日常と非日常が交差する、なにもかも違うけれど、お互いにないものを補えあえる凸凹コンビというにふさわしいふたりの爽快な青春ストーリーです。
新たな百合SFラノベのスタンダード

『忘れえぬ魔女の物語』(既刊2巻/宇佐楢春・かも仮面/GA文庫/2021-)はタイムループSF百合の一大傑作としておすすめしたい作品です。幼いころから同じ日を何度も繰り返して体験するという現象に見舞われてきた相沢綾香は、体感では年齢以上の長い時を過ごしてきて、時間の流れを共有できない周囲の人々からは孤立し、現象について信じてくれた従兄妹の水瀬優花だけが話し相手という灰色の毎日に倦んでいました。そんな彼女が高校に入学して稲葉未散という少女に出会い、未散に惹かれた綾香は、現象に悩まされながらも彼女と過ごす日々を楽しみにするようになっていきます。
1巻は、付きあう一歩手前で足踏みするふたりのいちゃいちゃもたっぷりみられるちょっぴり切なく甘酸っぱい青春ガールズラブでありながら、後半、優花を加えた三角関係も絡み、一気に物語は加速し、SF設定がありとあらゆる感情を引きずり出す装置として機能しているのが圧巻です。さらに驚くことには、1巻だけで、もはや付け加える要素がないように思えるほど完成された世界観を提示しつつ、2巻ではまた違った趣向を盛り込み、綾香と未散の物語を展開しています。もっと先を見たいという気持ちもありますが、すでに新たな百合SFのスタンダードとして名を残すに充分値するシリーズであると思います。
世界はふたりのために あるいはCrazy thing called love

『空に欠けた旋律』(全3巻/葉月双・駒都えーじ/GA文庫/2012-2013)は、数少ないライトノベルのリアルロボット戦記もので、泥沼の戦争が続く世界で、前線で戦い続け多くの敵を単騎で撃墜してきた「魔女」と称されるクッキィと、彼女に憧れてパイロットになったレイの関係が中心に描かれます。
思い余って告白したレイに、自分を残して死んでいく人間をずっと見てきたクッキィがつきあう条件に出したのは、自分より先に死なないこと。それに対してレイはそうなる前に自分が殺すと宣言。そうして、はじまったふたりの恋。ふたりを結びつける暗い情念とは裏腹に、猛烈にデレデレイチャイチャしているふたりのやりとりのギャップも印象的ですが、さらに、クッキィはレイの手以外にかかる運命を拒否し、レイは死ぬときはともにあること願い、ふたりを邪魔する者がいれば、たとえ長い時間を一緒に過ごしてきた仲間も即座に切り捨てることを決心し、世界の命運を分ける戦いの最中でも、互いに何かあればすべてを放り出してふたりの世界に入ってしまう極度の依存関係が強烈で、筆者にとっては多くの百合癖に目覚めさせられた忘れがたい一作です。
主従百合

『貴族は民を導き守るから尊い』という信念を貫き通そうとする公女・エリザベートに襲いかかる卑劣な罠に立ち向かうは戦闘武装メイド!
『武装メイドに魔法はいらない』(既刊2巻/忍野佐輔・大熊まい/富士見ファンタジア文庫/2021-)は、魔法が戦局を支配する異世界で、武装メイドのマリナが召喚する銃火器で対抗するファンタシー戦記。内戦状態の日本で戦いに明け暮れた短い生涯を終えた仲村マリナは、異世界の公女、エリザベートに召喚され、魂を持つゴーレムとして生き返ります。しかし、前世では戦争の道具としていいように扱われ、戦う意義を見出せずにいたことと、心酔した物語の影響で、心の底から尽くしたいと思える主人の元でのみ力を揮うことを望んだマリナは、エリザベートのことも簡単には信用せず、仕えるに値する主人かどうか、冷徹に見極めようとします。そんなマリナがエリザベートを主として認めていくまでの過程をじっくり描いているのが特徴的です。エリザベートは、『貴族は民を導き守るから尊い』という亡父からの教えを胸に、貴族の地位に胡坐をかくことはせず、領民とも積極的に交流し、慕われている心優しき領主ですが、領民のために税を取らずに自らは質素に暮らすという徹底した信念の持ち主。そんな理想の実現に邁進するふたりが不信を抱いた状態から互いの想いに応えていき身命を賭すまでの間柄に至るのが最高に熱い主従百合です。
魔法VS銃火器というロマン、圧倒的不利な状況を不敵に知略を尽くして戦い抜く姿、なにより固く結ばれていく主従の絆に撃ち抜かれます。

『征服娘』(既刊1巻/神楽坂淳・鈴羅木かりん/集英社スーパーダッシュ文庫/2008)は、結婚、出産―決められたレールの上を走るよりほかない名門貴族の娘・マリアが、自由を手に入れるため侍女であり親友でもあるアッシャとともに知略を以て男性優位社会に反旗を翻すというお話。マリアの戦いが志半ばで止まってしまっているのは残念ですが、優雅なふたりの間で固く結ばれた絆、特にアッシャのマリアに向ける並々ならぬ忠義ぶりは、この1冊でも堪能できます。
つづいて、単巻完結で手に取りやすい作品をふたつご紹介。

『詩剣女侠』(単巻/春秋梅菊・新井テル子/オレンジ文庫/2021)は、中国、明の時代を舞台にした時代もの。岩に詩を刻む剣舞『剣筆けんひつ』の名家、斐氏の一人娘・天芯とその侍女・春燕は、ともに剣筆を学びながら育ちますが、家が乗っ取られ、病を得た天芯は家名の再興を春燕に託して命を散らしてしまいます。ふたりの青年に助けられつつ(それでいていっさいヘテロ展開のない潔さ)、亡き主への想いを胸に卑劣な敵に立ち向かっていく春燕の苦難の道のりを描き、彼岸と此岸に引き裂かれても、なお断ち難い主従の絆に胸打たれる作品です。

『デスループ令嬢は生き残る為に両手を血に染めるようです』(単巻/沙寺絃・千種みのり/講談社ラノベ文庫/2023)は、人狼を基にしたデスゲームファンタジー。館に閉じ込められた8人の男女の中にふたりいる“悪魔”を見つけ出すまで生きて出られない死のループのなかで、令嬢がメイドとともに生き残るために尽くすお話で、メイドの少女を手を汚してでも守り抜こうとする令嬢の恋情が描かれていること、特殊設定×主従百合ならではの見せ場もしっかり用意されていておすすめです。
ミステリ

ガガガ文庫はレーベル開始初期に積極的に百合作品を展開していましたが、そのうちのひとつ『みすてぃっく・あい』(単巻/一柳凪・狐印/ガガガ文庫/2007)は、冬休みの女子校の寮に残っていた美術部員の生徒たち4人の間で起こった数日間の出来事を描いた作品で、バラバラな個性を持つ4人のやりとりはライトノベルらしいですが、SF的なテーマや幻想小説的な味わいを併せもつ衒学的なミステリという京極夏彦の京極堂シリーズや竹本健治の『匣の中の失楽』といった名作を思わせるような滅多にない作風は一読の価値があるかと思います。事件らしい事件は存在せず、いわば謎は少女たちだけの箱庭のような世界そのものに秘められていて、真実に近づくにつれ、驚きとともにせつない物語が姿を現す百合作品です。
名状しがたき関係


『プリンセス・ベルクチカ Proyekt-0』(既刊1巻/富永浩史・吉田音/ファミ通文庫/2005)日本の女子中学校で多くの後輩たちから慕われているワーシャは実は本物の一国のお姫様。祖国が独裁勢力に支配されていることを知り、祖国を解放するために乗り出します。ワーシャと祖国の地で出会ったアルフィリアとの関係が強い印象を残す百合作品です。悪政でなにもかも失ってしまったアルフィリアが、責任の一端を担うワーシャに向ける憎悪に対して、ワーシャはいつでも殺していいと自分の命を差し出します。そうして、不思議な追っかけっこが始まります。ややホモフォビアな意識が透けて見えるのが玉に瑕ですが、殺意と愛情が入り混じったふたりの関係は見逃せません。
著者には『BLACK SHEEP 黒き羊は聖夜に迷う』(既刊1巻/富永浩史・珊琶挿/HJ文庫/2008-)という同僚に手を出して教会を追われた好色なシスターと彼女が守ることになった少女の年の差百合アクション小説もあり、反響しだいによってはゼロ年代に希少な百合ラノベの書き手になってくれたかもしれません。

『天になき星々の群れ―フリーダの世界』(既刊1巻/長谷敏司・CHOCO/スニーカー文庫/2002-)は、生き延びるためにやむなく暗殺者となった少女フリーダと、非暴力を貫こうとする少女アリスの相克の物語。フリーダは、アリスが非情な現実の前に、その理想主義を投げ出し膝を屈する瞬間を見たいと願い、掛け値なしの憎悪を向ける反面、死と破滅しかもたらさない暗殺者以外の生き方を示すかすかな希望をアリスに見出し、相反する感情に引き裂かれる描写がスリリングです。

『TOY JOY POP』(単巻/浅井ラボ・柴倉乃杏/HJ文庫/2006)は、多くの百合好きにとってはnot for meかもしれませんが、売春組織の元締めの少女と組織の一員である少女の主人と奴隷のようでもあり共犯者のようでもある関係が、理解不能すぎて強烈なインパクトがあることだけは確かです。
ガールズラブ

名門女子校を舞台にした『神城リーリャは白百合の香りに恋焦がれる』(単巻/ちょきんぎょ。・つるこんにゃく/DIVERSE NOVEL/2020)は、ちょっぴりフェティッシュな官能小説寄りの作品ですが、はじめての恋にとまどい、ときにはすれちがいながらも、ひたむきに愛しあうふたりの高校生の初々しくも情熱的な恋の物語です。

アダルトアニメの先駆けとなった『くりぃむレモン』シリーズ。そのノベライズ作品のうちのひとつ『エスカレーション』(単巻/倉田悠子・富士見文庫版は不明・星海社FICTIONS版はいとうのいぢ/富士見文庫・星海社FICTIONS/1986)は、全寮制の女子校を舞台に、生徒会長の上級生に誘われ、転校生の少女がひとりの同級生とともに、夜毎睦みあううちにという百合SM小説。すこし時代がかっていますが、迫真の心理描写は別名義でも名をはせた小説家の手によるものだけあってさすがです。
全寮制のミッションスクール、お姉様、社会に出る前の箱庭的環境における刹那的な関係というモチーフは『花物語』から『マリア様がみてる』が登場するまでの間隙を縫う百合の歴史的にもたいへん興味深い一冊です。
シスターフッド/ロマンシス


まずは蛙田アメコ先生の作品を続けてご紹介します。『女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました』(全2巻/蛙田あめこ・三弥カズトモ/オーバーラップノベルス/2019)は、性別を理由にパーティをクビにされた冒険者のターニャが、封印されていた伝説の大魔女・ラプラスと組んでのしあがっていくファンタシー。ふたりの軽妙なかけあいは楽しく、支え合う姿には心温まりますが、男性優位の冒険者の世界でみせるターニャたちの活躍が、周囲の女性たちをも勇気づけ、それまで縛りつけられていた価値観から解放されていくのが爽快な本作。現実の医大での女性の試験結果改ざん事件(人命さえ軽視する女性差別の根深さには慄然とします)に触発され、女性差別やそれに基づく社会構造というアクチュアルなテーマを盛り込んで、「危険な職業なのに、女性だけ露出度の高いとかおかしくない?」といったファンタシーのお約束も一刀両断してみせる痛快な作品です。
悪役令嬢×メインヒロインものの『異世界に咲くは百合の花』(単巻/蛙田アメコ・佐倉汐/GL文庫/2020)でも、女性が政略結婚の駒か飾りでしかない貴族の世界で、努力家で能力に優れているがゆえに煙たがられている悪役令嬢を、メインヒロインだけは、そのほんとうの姿を愛し、よき理解者となるシスターフッドも描かれたガールズラブです。

『腹ペコ聖女とまんぷく魔女の異世界スローライフ!』(既刊1巻/蛙田アメコ・KeG/ドラゴンノベルス/2021-)は 『ぐうたら』『おちこぼれ』の烙印を押されて修道院から追放されてしまった見習い聖女が、ひとりの魔女と出会ったことで、才能を開花させ癒しの力で人々を救っていくお話です。根っからの善人で心優しい聖女と、天才ゆえの孤独から救ってくれた聖女に慈愛を注ぐ魔女の交流に心温まります。一方で、元の修道院では、ほんとうは縁の下の力持ちだった聖女が抜けたせいでいろんなことがうまくまわらなくなっていってという典型的な「ざまぁ」展開があるのですが、ふつうなら相手をこてんぱんにしなければ終わらないところを、聖女を体よく利用していた少女にも赦しが訪れる優しい世界が描かれています。

『突然パパになった最強ドラゴンの子育て日記 ~かわいい娘、ほのぼのと人間界最強に育つ~』(全4巻/蛙田アメコ・せんちゃ/GCノベルス/2020-2022)は、親に捨てられた少女をドラゴンが育てる作品ですが、長じて学校に通うことになった娘と級友の少女たちとの交流、親子の良き隣人となるかつて勇者との争いに敗れ、人知れず引きこもっている魔王である女の子と、その元にただひとり残った元騎士の女性の主従も描かれた心温まる作品です。
どの作品でも、おかしいと思ったことに声をあげる気概と、理不尽に見舞われた人々にエールを送る人情味あふれた蛙田アメコ先生の作風に心が軽くなります。

『乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル』(既刊8巻/春の日びより・ひたきゆう/TOブックス/2021-)は、自分が乙女ゲームのヒロインであることを知った少女・アリアが、シナリオを拒否し、自らの手で生きる道を切り開いていこうとする物語。紙面の大半が割かれた濃密なバトル描写がメインと言ってよいですが、親切にしてくれた人への恩は忘れないけれど、目の前に立ちはだかる敵には一切の容赦がないアリアと、王国の行く末を案じ、王子に代わって一国の主として立つことを決意した王女のエレーナが、自ら運命を切り開こうとする者同士、運命の出会いから固い絆で結ばれていくのが印象的なロマンシス作品です。そして、強大な力を宿す代わりに長くは生きられない身体となり、自身をそんな運命に陥れた貴族社会に復讐を誓う少女カルラとアリアの死闘が物語の最大の山場として描かれます。復讐を終えた人生の幕引きに、運命に抗うただ一人の同胞として認めたアリアと戦って死ぬことを夢見るカルラは、さらなる成長を促すためアリアを容赦なく次々と試練に陥れていきますが、アリアもまたカルラの想いを汲み、カルラの打倒を誓います。

『国を守護している聖女ですが、妹が何より大事です~妹を泣かせる奴は拳で分からせます~』(既刊2巻/八緒あいら・ミュシャ・キャラクター原案:so品/ TOブックス/2023-)は、妹のルビィを溺愛し、妹のためなら聖女としての立場も貴族としての立場もかなぐり捨てるクリスタの破天荒な活躍を描くファンタシー。
陰では妹の邪魔をする者は容赦なく得意の拳で黙らせるけれど、ルビィのやろうとすることはたとえ無茶な挑戦でも止めようとせず見守ろうとする姿に深い愛情を感じられるクリスタと、いろいろと規格外な姉にコンプレックスを感じながらも尊敬もしていてちょっぴり複雑な愛情を姉に向けるルビィとの関係もほっこりしますが、周囲の聖女たち――最年長の厳格な聖女のまとめ役で、クリスタも頭が上がらないマリア、クリスタに懐いているソルベティスト、言葉少なにクリスタへかまってオーラを出しても、本人には気づいてもらえないユーフェア、しょっちゅう妹絡みの暴走に振り回されツッコミつつも協力してくれる口は悪いけれど気のいいエキドナとのやりとりも楽しい作品です。

『ゆるコワ! ~無敵のJKが心霊スポットに凸しまくる~』(既刊1巻/谷尾銀・しらび/角川文庫/2023)は、オカルト研究会を立ち上げた頭脳明晰な循と腕っ節の強い梨沙、ふたりの高校生が怪異を剛腕でぶちのめしていくホラー連作。しれっと怪異よりヤバイふたりの活躍が楽しめます。いかにも間の長いつきあいの幼馴染らしい気の置けない仲がうかがえるふたりの空気感もよいのですが、特に「File2」で楯から梨沙に向けられる闇寄りの巨大感情にゾクゾクします。
チート百合のすすめ
2010年代後半に入ってくると、なんらかのチートな能力を持つ女性を主人公にした女性だけのパーティやバディの冒険を描く百合作品が目に付きますが、そのなかからいくつかご紹介したいと思います。

『嘘つき戦姫、迷宮を行く』(既刊5巻/佐藤真登・霜月えいと/ヒーロー文庫/2017-)は、主人公のリルドールが縦ロールを武器にして戦う面白さと、リルとその妹分コロネルの関係が特徴的な作品。
貴族令嬢のリルドールは、功名心だけは人一倍強いけれど、まったく実力が伴わず、気位の高さから数々の問題行動を起こした末にとうとう実家を追い出されます。そんなときに知り合ったコロネルは高い戦闘能力を持ちながらも、とても純粋な性根の持ち主のためリルの大言壮語を真に受けて慕うようになります。そんな勘違いから始まった関係ですが、コロの迎えたピンチにリルは唯一無二の能力を開花させ、それから快進撃が始まります。
リルの主人公らしからぬユニークなキャラクタや、コロネルとの出会いによって、空回りしていた想いを力に変えて成長していく姿も印象的ですが、ふだんはリルがコロを引っ張っていくようにみえて、実はコロの存在にどっぷりと依存しているのが面白いところ。ふたりとパーティを組んでいるヒィーコとムドラは、そんなふたり(というかリル)に、呆れたりつっこんだりしつつも、なんだかんだとリルをリーダーと認めていて、そんな4人の空気感も楽しいです。
さらに、幼少期からリルに付き従ってきたメイドのアリシアとの関係や、協力関係にあるパーティの女性陣たちの関係性など、いろんな想いが溢れた百合作品です。

『剣士を目指して入学したのに魔法適性9999なんですけど!?』(全8巻/年中麦茶太郎・りいちゅ/GAノベル/2016-2019)は、一流の剣士を目指してわずか9歳で冒険者学校に入学したローラを主人公にしたコメディタッチのファンタシー。
ローラが冒険者学校で出会った魔法の名門一家出身のシャーロットと頭抜けた戦士の才能を持つアンナは、どちらがローラを抱き枕にするかでケンカするくらい、ローラのことが大好きで猫っかわいがりしています。その一方で、ふたりはローラのライバルを自認。ローラに誰も並ぶ者のいない天才ならではの孤独を味わわせないため、対等な立場の友人として側にいたいからこそ、圧倒的な実力差を前に、なんど軽くあしらわれても戦いを挑み、決してあきらめずに食らいついていこうとするその姿勢に心温まります。そんな仲良し3人組の冒険を描いたシリーズです。

『打撃系鬼っ娘が征く配信道』( 既刊3巻/箱入蛇猫・片桐/TOブックス/2020-)は、現実で常人離れした身体能力を持つ菜々香を主人公にしたVRMMOファンタシー作品。あまりのオーバースペックに現実の世界では力を発揮する場のなかった菜々香は、幼馴染の親友・凛音に誘われてはじめたゲームの世界で、秘めていた力を解放し、その特異な戦闘スタイルが注目を集めるプレーヤーになっていきます。ゲーム内の世界観も練られているので、そのストーリーとともに菜々香の迫力のある戦闘シーンが楽しめます。
菜々香が大好きな凛音は、所有する高層マンションの一室をポンと与えたり目に入れても痛くない可愛がりようを見せますが、凛音が菜々香をプロゲーマーの道に誘ったのも、窮屈そうに暮らす菜々香に思う存分力を揮わせてあげたいと思っていたからで、菜々香を思いやる姿に深い愛情が感じられます。あまり人と関わり合うことのなかった菜々香もまた凛音には特別に気を許していることがうかがえます。
そんな菜々香と凛音に、凛音の従妹でふたりを慕うトーカもときたま交えた日常のシーンも挟まれたり、NPC同士の吸血鬼百合が展開されたり、菜々香とプレイヤーを殺すことに無上の喜びを見出すプレイヤー《殺人姫》ことロウとの死闘が描かれたり、そのロウと鍛冶職の女性との関係だったり、ほのぼのから殺伐としたものまで、様々な関係性が埋め込まれています。それまで、断片的に語られていた菜々香の生い立ちに関する謎がついに明らかになる3巻では、菜々香が内に秘めていた凛音に対する想いの強さに、ただただ圧倒されます。
ほのぼの異世界ライフ
おもに異世界を舞台にしたファンタシー作品をいくつかご紹介します。ほのぼのした雰囲気の作品は、衝撃的な展開につながりにくいぶん、こうした企画では名前が上がりにくい傾向もあるかと思いますが、百合ライフを豊かに彩ってくれる素敵な作品群です。






『魔王の娘は世界最強だけどヒキニート!』(既刊2巻/年中麦茶太郎・椎野せら/GAノベル/2017-)は、人類を滅ぼすべく人間界に送り込まれた魔王の娘アイリスが、めんどくさくて廃教会に引きこもっていたら、垂れ流しだった膨大な魔力が人々に恩恵をもたらして、女神として崇められてしまうコメディ作品。アイリスはいろんな女性たちにかわいがられていますが、最初は敵対的だった教会の元の主のミュリエルと、ときどき友だち以上に意識しあっちゃってもだもだするのがとってもかわいいです。
『ほのぼの異世界転生デイズ ~レベルカンスト、アイテム持ち越し、私は最強幼女です~』( 既刊3巻/しっぽタヌキ・わたあめ/MFブックス/2020-)転生幼女レニが保護者がわりのエルフのお姉さんといっしょに悪者たちをお星さまになって飛んでけ~しちゃうほっこり痛快ファンタシー。レニの愛らしい姿にも癒されますが、レニを崇拝しているエルフとの年の差/主従百合的要素もあり、3巻では世界を超えてつながる巨大感情が炸裂する強火の百合展開もあります。
『レベル1の最強テイマー』(既刊2巻/ジャジャ丸・bun150/カドカワBOOKS/2022-)は、幸運だけでVRMMOゲームを無双してしまう主人公のクレハと周囲の女性たちの日常とゲーム内の冒険が描かれたファンタシー。ふだんからクレハを猫っかわいがりしていてゲーム内でも仲間になるクラスメイト、クレハと正反対にとっても不運な女の子、クレハを溺愛する姉などに囲まれた愛情たっぷりな空間に思わず目を細めてしまいます。
異世界に転移した化粧品会社の社員が、行き倒れていたところを拾ってくれた魔女と協力して、美容の概念さえなかった異世界でコスメを開発する美容をテーマにした異色の『異世界コスメ工房』(単巻/南コウ・meeco/電撃の新文芸/2024)は、主人公が初心に帰ってたくさんの女の子たちを笑顔にする化粧品をつくるという理想を実現し、忘れかけていたコスメ開発への情熱を取り戻していくのが痛快でした。終始、そっけない態度をみせる魔女との間にだんだんと絆が結ばれていくのも印象的です。
気ままなスローライフを送っていた森の聖女が、渋々、押しかけ弟子の面倒を見ることになってしまう『私の魔法は絶対に当たるんです ~スローライフを守るために魔法を撃ち続けていたら、いつの間にか森の聖女になっていました~』(既刊1巻/天坂つばさ・みきさい/Kラノベブックス/2024-)は、いっしょに過ごすうちに、だんだん愛着がわいてきて離れがたくなっていく師弟間の濃やかな愛情にほろっとする爽やかな作品。
『うちの勇者ちゃん達がレベル99になっても初心者の館を卒業しない件について』(既刊1巻/時田唯・たかやki/電撃の新文芸/2022)は、パーティを組む4人の女の子たちを主人公にしたファンタシー。国の制度によって初心者の館の試験に合格しないと、冒険者の資格が得られないのに、その日になると、いろんなトラブルに遭遇して、いつまでたっても脱初心者できない彼女たち。ほんとうはすごい実力を持っているけれど本人たちは無自覚で、頻繁にトラブルに遭遇する体質、困っている人たちを見捨てない、いわば勇者の素質がありすぎてかえって勇者になれないコメディ。そんな彼女たちだけに、気は優しくて仲間思いな子たちばかりで、その和気藹々としたやりとりに癒されます。
日常と友情

実写映画化もされた『女子高生の放課後アングラーライフ』(単巻/井上かえる・白身魚/スニーカー文庫/2021)は釣りと友情をテーマにした作品。
関西の高校に転校してきた追川めざしは、友だちから些細な理由から陰湿な苛めを受けたせいで、新しい学校では、できるだけ目立たずに友だちも作らないと思い詰めていました。ところが、登校初日から、さっそく同級生の白木須しろぎす椎羅しいらに熱烈に誘われて、海釣り同好会「アングラ女子会」に引き入れられます。
小柄だけど元気いっぱい、釣りが大好きで、めざしともグイグイ距離を詰めてくる椎羅。椎羅の幼馴染でもある汐見凪は、明里と対象的に落ち着いた雰囲気のある大人びた風貌ながら、明里の絶え間ないボケにすかさずツッコミ、かつ明里たちに気圧され気味なめざしの心中を察してフォローしてくれる気配りの利く性格。副部長の間詰まづめ明里あかりは椎羅に心酔していて、凪や明里に対しては打って変わって強気になりますが、一本気な性格で、そんな3人に囲まれて、釣り道具に触れたことさえなかっためざしも、だんだん釣りの楽しみを知っていきます。
めざしが、押しは強いけれど裏表のない「アングラ女子会」の彼女たちと過ごすことに、次第に居心地の良さを覚えるようになり、本音で接せる間柄になっていく、爽やかな後味を残す青春小説です。

『ジョシコーセーの成分。 SCHOOL GIRL OVERFLOW』(単巻/ハセガワケイスケ・ゆあ/電撃文庫/2013)は、地方から名門女子校に進学した少女の日常を描いた作品。寮には気の合う友達もいるけれど、教室ではキラキラしているクラスメイトに気後れして横目に眺めるばかりの毎日。しかたなしに孤独主義者を気取るけれど、実は周囲の彼女たちからは変で面白い子だと思われてて優しく見守られている、そんなすれちがいが面白い、優しい世界のゆるくてかわいらしい作品です。著者には似たテイストの作品に『いのち短しサブカれ乙女。』(単巻/ハセガワケイスケ・ゆあ/メディアワークス文庫/2016)があるほか、いっしょに劇をやることになった女子高生4人の間に育まれていく絆と友情が描かれたちょっぴりビターな味わいの『カーテンコールが鳴る前に。』(単巻/ハセガワケイスケ・shimano/電撃文庫/2019)もあります。

『友だちの作り方』(単巻/愛洲かりみ・もりちか/HJ文庫/2009)は、極度のあがり症で友達を作れずにいる高校生を主人公にしたお話。お昼をいっしょに食べる人がいない仁科椛は、屋上の開け方を発見し、お昼休みの避難先にしていましたが、ある日、そこで山下柚木と名乗る生徒と出くわします。まるで世を儚んでいるようにみえる柚木を引き留めようとして必死になった椛は自分から友達になろうと名乗りでます。そうして、できたはじめての友達に嬉しさ半分、戸惑い半分な椛に、柚木は友人の作り方をレクチャーしていきます。
中盤、椛に興味を持った同級生に友情を表明したつもりが愛の告白と勘違いされるシーンが出オチで終わってしまっているのが残念なのと、後半、男子生徒も少し関わってきて百合感は減じますが、核となる友情をテーマにしたガール・ミーツ・ガールとしては満点をあげたいです。最近のガールズラブコメにも通じるしかけが施されているのも興味深いです。(※残念ながら現在、紙書籍の書店流通はなく、電子書籍での販売もありません。その点、紹介しておいて申し訳ないです。)
ちょっと変わり種
ここでは大傑作とまではいかなくても捨て置くには惜しいちょっと珍しい作品を採りあげます。それと、最初にお断りしておきますが、3作とも画像にはリンクを貼りましたが、電子書籍では発売されていなくて、古書という形でしか手に入らない作品で申し訳ないです。もしプレミア価格で見かけてもスルー推奨ですが、古書店や図書館で見かけたらちょっと手に取ってみるのもいいかもです。

『アーケードゲーマーふぶきー #恋愛STAGE』(単巻/斎藤ゆうすけ・吉崎観音・CGイラスト:江田恵一/ファミ通文庫/2002)は、吉崎観音の漫画作品を原作としたスピンオフ小説。時代を感じさせるお色気設定はさておいて、基本的にはドタバタギャグ小説なのですが、主人公のふぶきにひとりの少女が寄せるちょっぴり巨大な想いが意外と繊細に描き出されていて、思わぬ拾い物でした。タイトルの「#恋愛STAGE」に関して作中ではまったく説明がなく何を指すのか不明ですが、本作がガールズラブを意図して書かれたのだとすると、公式に百合作品ではない作品でGL展開をした珍しい例ということになります。

『でびるbox あくまで姉妹! 』(単巻/あおしまたかし・原作:広井王子・爆天童/電撃文庫/2006)は携帯向けのゲーム「でびるbox」のノベライズ作品。ひとりぼっちになった7歳の時、どこからともなく現れた6人の姉とともに暮らす中学生のひかり。性格も見た目もまるで違うけれど、それぞれにひかりを溺愛する姉たちは実は悪魔だったというお話。魔界の争いに巻き込まれたひかりを守るため、姉たちが立ち上がります。ひかりを巡って取り合いする姉たちのやりとりはおかしく姉妹の絆にじんとくるシーンもありますが、姉たちがひかりにちょっとえっちなお願いをきいてもらってパワーアップしたり、敵に百合乱暴されかかったり、けっこう好き放題やってます。そのあっけらかんとした作風は「禁断の恋」的なイメージとはかけ離れているせいかあまり時代を感じないです。

ちょっと意外な作者の作品というところでは、コバルト・ノベル大賞やファンタジーノベル大賞での華々しい受賞歴を持ち、ゲームのシナリオライターとして有名作に関わっている著者の『ナハトイェーガー ~菩提樹荘の闇狩姫~』(単巻/涼元悠一・一美/GA文庫/2006)は、女の子たちがひたすらイチャイチャしていて楽しいです。ものものしい雰囲気や思わせぶりな展開も、ふたを開けてみればイチャイチャさせるための前振りのようなもので、壮大なストーリーを期待すると肩透かしかもしれませんが、なんだか潔くも感じます。
未来の百合ラノベを支える有望作家

『転生少女の三ツ星レシピ ~崖っぷち食堂の副料理長、はじめました~』(単巻/深水紅茶・白峰かな/カドカワBOOKS/2023)は、カクヨム自主企画百合コンテストで【みかみてれん賞】を受賞、富士見ファンタジア文庫GirlsLine主催の百合小説コンテストでは【大賞】と【百合×ラブコメ賞】を同時受賞するなど華々しい受賞歴を誇り、今後の百合作家としての活躍が期待される深水紅茶先生の実力の一端がうかがい知れる、いまのところ唯一の書籍化作品。いっさい調理器具を持てない呪いをかけられてしまった元宮廷料理人のサーシャと、母親の遺した大衆食堂を受け継いだものの料理については素人で閉店寸前まで追い込まれていたキルシュが出会って、ふたりで店を盛り立てようとするお話。実はサーシャが女の子にモテモテだったりするあたりも楽しいですが、キルシュにとってサーシャがなによりも大切な存在になっていく過程が巧みなストーリーテリングで描かれた感動作です。
