4月発売の百合文芸

発売日タイトル/作者出版社/レーベル
4/10
声優ラジオのウラオモテ #10 夕陽とやすみは認められたい?
二月公
KADOKAWA
電撃文庫
声優ラジオのウラオモテ DJCD
二月公
KADOKAWA
電撃文庫
泣いちゃうわたしと泣けないあの子
倉橋燿子
講談社
4/11
要の台所
落合由佳
講談社
なんとかなる本 樹本図書館のコトバ使い (2)
令丈ヒロ子 非百合作品を含む短編集
講談社
4/18
私のマリア
東雲めめ子
集英社
オレンジ文庫
4/19
週に一度クラスメイトを買う話 (4) ~ふたりの時間、言い訳の五千円~
羽田宇佐
KADOKAWA
富士見ファンタジア文庫
ほんわか魔女を目指していたら、史上最強の杖に選ばれました。なんで!?
下等妙人
KADOKAWA
富士見ファンタジア文庫
4/22
『人斬り少女』、公爵令嬢の護衛になる (2)
笹塔五郎
マイクロマガジン社
GCN文庫
カナシミ水族館 心が泣き止む贈り物
夕瀬ひすい
マイクロマガジン社
ことのは文庫
4/23
冷蔵庫のように孤独に
村木美涼
早川書房
4/24
蝋燭は燃えているか
桃野雑派
講談社
4/25
死亡遊戯で飯を喰う (6)
鵜飼有志
KADOKAWA
MF文庫J
病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる 1 ~友達が欲しくて魔境から旅立ったのですが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです!?~
アトハ
オーバーラップ
オーバーラップノベルス
4/30
感傷ファンタスマゴリィ
空木春宵
東京創元社
創元日本SF叢書
十歳の最強魔導師 (10)
天乃聖樹
主婦の友社
ヒーロー文庫

 まずは続刊作品から。現在、TVアニメ放送中のライバル百合の面白さがたっぷりと詰まったシリーズ『声優ラジオのウラオモテ』最新10巻と、主役のふたり以外にも焦点を当てたスピンオフ『声優ラジオのウラオモテ DJCD』が同時発売。

 剣戟ファンタジー『「人斬り」少女、公爵令嬢の護衛になる』2巻は、1巻に引き続き、さらに濃密な主従百合が展開されます。

 『週に一度クラスメイトを買う話』4巻は、宮城が仙台を5千円で買う関係を解消する期限としていた高校卒業を控え、ふたりの関係がどうなるのか、ひとつの山場を迎える巻となりました。

 『死亡遊戯で飯を喰う』6巻は、幽鬼が自分自身の幻影と戦うというイレギュラーなデスゲームが描かれますが、幽鬼専属のエージェントと幽鬼の関係が描かれているのが印象的です。

 『十歳の最強魔導師』10巻は、フェリスたち一行に新メンバーも加わり、ますます仲良しぶりを過熱させる一行ですが、フェリスの秘密がだいぶ明らかになり、物語が佳境を迎えようとしているようです。チートな女性主人公ものは多いですが、百合好きにストレスとなるような描写がいっさいなく安心して楽しめるので、これからでもぜひ追っていただきたいシリーズです。

 新シリーズも『ほんわか魔女を目指していたら、史上最強の杖に選ばれました。なんで!?』『病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる』の2作が登場。奇しくも、どちらも規格外の少女が転校先で友達作りに励むお話。前者は若干ダークな世界観を背景に、主人公ふたりの出会いから、すれ違いを経て絆を深めていく過程がテンポよく語られます。後者は、後半きなくさい陰謀も絡んでくるものの、主人公が規格外の力とおかしな勘違いで周囲を混乱させたり、コメディ色が強く全体にほのぼのとした作品でした。

 ライト文芸レーベルから出た作品として注目の作品は、オレンジ文庫から発刊された『私のマリア』。名門女子校から失踪した一人の少女を巡るサスペンスですが、物語の核心に触れない範囲だけでも、王子様女子、幼馴染、母娘の百合が観測できる濃密な百合ミステリでした。これ以上は作中の展開に触れざるを得ないので割愛しますが、公式には百合と明言されていないものの、それで見逃すのはあまりに惜しい作品です。さらに、オレンジ文庫の作品紹介ページから、登場人物のその後を描いたスピンオフ作品に辿れるのですが、こちらも巨大感情が描かれた作品ですので、併せて読むことをおすすめします。

 『カナシミ水族館 心が泣き止む贈り物』は、友人とすれ違ってしまった主人公が、人々の悲しみが集まる不思議な水族館での経験を経て、ふたたび友人と向き合い、縁を結びなおしていくお話。不思議な水族館での体験を中心に描きつつも、友人から心を許せる親友へとなっていく様が眩しい作品でした。

 空木春宵の第二作品集『感傷ファンタスマゴリィ』は、第一作品集『感応グラン=ギニョル』から引き続き、様々な女性同士の関係が描かれています。幻想的な世界観を描きつつ、現実の差別や暴力に切り込んでいく作風にあって、女性同士の恋愛や性愛もごく当たり前のこととして描かれているのが救いです。

 『冷蔵庫のように孤独に』は、主人公が男性と仲を深めていく様子も描写されますが、ピアノを通じて紡がれる母娘ほどに年の離れた女性同士の時を超えた交流が描かれています。

 百合武侠ミステリ『老虎残夢』で江戸川乱歩賞を受賞した桃野雑派の3作目『蠟燭は燃えているか』は、行方不明の友人に向けた動画を巡って起きた炎上騒動の渦中にある女子高生・真田周が、事件現場で探していた友人を見かけたことから、京都を舞台にした連続放火事件の謎を追うことになるミステリ。理不尽な状況に、減らず口を叩きながら立ち向かう周の姿が痛快で、友人の行方と事件の謎を追うためコンビを組んだ周の友人と同じ日に失踪した友人を探す年下の少女・芽衣とのやりとりが楽しく心温まりますが、迷惑系配信者やカルト教団、人種差別などの問題に切り込んだ痛切な社会派本格推理です。

 『ふしぎアイテム博物館』は、不思議なアイテムがもたらす悲喜こもごもを描いた連作集で、百合エピソードは、わずかに1編だけなのですが、博物館の館長・宝野ヤカタと助手のメイの関係が興味深かったので、今度に期待も込めてリストに加えています。

 さまざまな女の子どうしの物語を描いてきた児童書の大御所・令丈ヒロ子の最新シリーズ『なんとかなる本 樹本図書館のコトバ使い 2』は、言葉の力が迷える子供たちを導いていく連作集の第2弾ですが、4編中2編で、女の子どうしの友情が描かれています。特に3編目「一人がこわいさんと満欠みちてはかけるのことば」では、ギクシャクしてしまった大切な友人と関係が描かれますが、満足度の高い充実した一篇でした。

 『要の台所』は、ネパール人の少女と日本人の女の子が、言葉や文化の違いに戸惑いながらも、友情を築いていくお話です。

 『泣いちゃうわたしと泣けないあの子』は、同じアイドルグループが好きだったことから、対照的な女の子が友情を深めていきます。思ったことを口にできないタイプの少女が、そのために友だちとすれ違ってしまい、それを契機に思いを伝えていく大切さに目覚めていく、主人公の成長を描く作品です。

その他、今年刊行された百合文芸。今後発売予定の作品はこちら

タイトルとURLをコピーしました