5月の百合文芸ふり返り

発売日タイトル/作者出版社/レーベル
5/1
勇者殺しの花嫁 (2) 盲目の聖女
葵依幸
ホビージャパン
HJ文庫
5/2
元貧乏エルフの錬金術調薬店 (2)
滝川海老郎
KADOKAWA
ドラゴンノベルス
5/11
青がゆれる(『ジェリーフィッシュ』改題)
雛倉さりえ 文庫化非百合作品を含む短編集
東京創元社
創元文芸文庫
5/15
ガイド役の天使を殴り倒したら、死霊術師になりました (1) ~裏イベントを最速で引き当てた結果、世界が終焉を迎えるそうです~
エリーゼ
アース・スター・エンターテイメント
アース・スターノベル
5/17
ジュニアハイスクールD×D 転校生はサムライガール
東雲立風
KADOKAWA
富士見ファンタジア文庫
5/20
小説 夜のクラゲは泳げない (1)
尾久ユウキ
小学館
ガガガ文庫
5/21
裏世界ピクニック (9) 第四種たちの夏休み
宮澤伊織
早川書房
ハヤカワ文庫JA
5/22
セント・アグネスの純心
宮田眞砂
星海社
星海社FICTIONS
カフネ
阿部暁子
講談社
詐欺師と詐欺師
川瀬七緒
中央公論新社
葬られた本の守り人
ブリアンナ・ラバスキス
小学館
ミステリー小説集 脱出
アンソロジー 非百合混在
中央公論新社
5/31
無敵な聖女騎士の気ままに辺境開拓 (1) 聖術と錬金術を組み合わせて楽しい開拓ライフホビージャパン
HJ文庫
捨てられエルフさんは世界で一番強くて可愛い!
月夜涙
KADOKAWA
スニーカー文庫

 まずは続刊作品から。『勇者殺しの花嫁』の2巻は、花嫁から勇者に向ける感情が明確になって、より百合小説としては面白くなってきましたが、一部のキャラのステロタイプな描写は気になりました。『元貧乏エルフの錬金術調薬店』も2巻が出ました。主人公のミレーユを中心とした仲の良い暮らしぶりは変わらず描かれていますが、ヘテロ好きの読者に向けた一幕もあり、純粋に女の子どうしやりとりを楽しみたい方は要注意です。
 『ガイド役の天使を殴り倒したら、死霊術師になりました (1) ~裏イベントを最速で引き当てた結果、世界が終焉を迎えるそうです~』は、ゲーム世界でも現実世界でも互いに特別な存在である主人公のリンネ=竜胆天音と、親友のペルセウス=七瀬真弓の活躍を中心に描かれたVRMMOテーマのファンタシー。
 『ジュニアハイスクールD×D 転校生はサムライガール』は、男性主人公のハーレムラノベのスピンオフで、男性向けなノリではありますが、登場するのはほぼ女性だけで、今作オリジナルの女性主人公が、戦いを通して仲間と絆を深めていく様子が描かれています。
 音楽を通した女性たちの関係を描いた作品が豊作な今期のTVアニメですが、そのうちのひとつをノベライズした『小説 夜のクラゲは泳げない (1)』は、脚本担当の作家自身が執筆を担当。挫折を経験した少女たちが、新たな仲間とともに、いまいちど這い上がろうとする過程が濃やかに描かれていて、読みごたえがありました。3か月連続刊行されるとのことで、アニメともども今後の展開に期待です。
 『無敵な聖女騎士の気ままに辺境開拓 1 聖術と錬金術を組み合わせて楽しい開拓ライフ』は、過疎化が進む辺境を開拓する聖女騎士・ジナイーダの無双ぶりを描いた作品ですが、ジナイーダをとりまく女性たちとの交流も描かれた作品。ちなみに、聖女騎士は戒律で男性との交流が禁じられています。
 『捨てられエルフさんは世界で一番強くて可愛い!』は、不穏な世界観のファンタジーですが、ヒロインどうしがひたすらイチャイチャしているのが救い。先行きが不透明な中で、今後の展開が非常に気になる作品です。

 新潮社から発刊された雛倉さりえのデビュー作『ジェリーフィッシュ』が、『青にゆれる』と改題し、書下ろし一編を加え、創元文芸文庫の一冊として刊行されました。登場人物が入れ替わっていくロンド形式の連作短編集ですが、うち二編は、不実な少女に振り回される少女の失恋を巡るお話。鋭敏な思春期の感性を、流麗な文体で映し出す青春小説です。百合を含むアンソロジーとして、『ミステリー小説集 脱出』は、斜線堂有紀、空木春宵の作品に百合要素が感じられます。
 『裏世界ピクニック (9) 第四種たちの夏休み』は、シリーズ1年4か月ぶりの新刊。8巻で新たな関係のステージに立った空魚と鳥子。浮かれる鳥子と、ふたりの関係が恋愛として捉えられることにどうしても納得がいかない空魚のズレたやりとりに、何度も吹き出してしまいました。そのふたり以外の登場人物たちの関係の変化も描かれた巻となっています。
 『セント・アグネスの純心』は、女子校を舞台とした<日常の謎>ミステリであり、ミッションスクール、寄宿舎、疑似姉妹制度、女子校百合の理想郷のような環境を舞台に、連帯、友情、恋愛といった明確な言葉の狭間に揺蕩う、少女たちのさまざまな濃度と色あいの感情のグラデーションを繊細にすくいとる百合小説でした。
 『カフネ』は、溺愛していた弟を亡くした女性・薫子と、弟の恋人だった女性せつなの関係を描いた作品。最初は、無愛想なせつなの態度に苛立っていた薫子ですが、せつなの仕事を手伝うことになり、次第に距離を縮めていく過程が描かれています。友情でも恋愛でもない愛のカタチを示す薫子の決断にハッとさせられます。
 『詐欺師と詐欺師』は、綿密な計画を練り手間をかけた大胆な詐欺を得意とする・藍と、場当たり的な犯行を繰り返すみちる、まったくタイプの異なるふたりの詐欺師がタッグを組んで、みちるの復讐計画にあたるミステリ。師弟のようにも、姉妹のようでもあるふたりのやりとりが楽しめる作品ですが、終盤、異様な展開とともに立ち現れる濃密な関係性が暗い魅力を放っています。
 『葬られた本の守り人』は、第二次世界大戦前夜から終戦前にかけて、権力者による書物への検閲に対する3人の女性それぞれの戦いを描いた作品であり、時代の波に翻弄される女性どうしのラブストーリーでもある作品です。第二次世界大戦を背景にした作品ですが、各地で紛争が続き、アメリカでは、一部の図書館で多くのLGBTQ+関連の書籍が取り扱いを制限され、ロシアでは同性愛宣伝禁止法の施行による、同性愛を扱った作品の弾圧が進むいまをも照射する作品として注目です。

その他、今年刊行された百合文芸。今後発売予定の作品はこちら

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