『小説 夜のクラゲは泳げない1』は、現在、TVアニメ放送中の同題アニメの脚本を担当する著者自身によるノベライズ。アニメの放映に合わせて3か月連続刊行されるシリーズの第一弾。あとがきによれば、“『映像に特化したコンテ』になる前の、『脚本の最終稿』に近い内容”とのことなので、アニメとの違いも楽しめる作品となっているようです。筆者はアニメは未見ですが、小説版単体でも、登場人物の心情がじっくり描かれていて読みごたえがありました。
SFホラー『裏世界ピクニック』シリーズの最新刊9巻が登場。8巻で、新たな関係を築いた鳥子と空魚。ふたりの関係を恋愛の文脈で捉えられることがどうしても納得がいかない空魚と、空魚の態度に一喜一憂する鳥子を描いた愉快なラブコメとしても楽しめますし、小桜や潤巳るななど脇を固める登場人物たちにも新しい関係性が芽生えて、思索と恐怖とともに百合濃度の高い巻になっているのではないでしょうか。
『セント・アグネスの純心』は、中高一貫の女子校を舞台にした<日常の謎>ミステリ作品。前作『ビブリオフィリアの乙女たち』でも、探偵役のふたりの関係性を軸にして、百合とミステリの融合が見られましたが、さらに一歩進んで、より百合描写と謎解きが密接に関係する連作に仕上がっています。
『カフネ』は、溺愛していた弟を亡くした女性と、弟の恋人だった女性が、反発しながらも結びつきを強めていく作品。友情や恋愛といった言葉では括れない愛の形が濃密に描かれた作品です。
『詐欺師と詐欺師』は、大掛かりな仕掛けを得意とする百戦錬磨の詐欺師・藍と、場当たり的な犯行を繰り返してきた詐欺師・みちるがタッグを組んで、みちるの両親を死に追いやった者への復讐計画に臨むお話。潤沢な資金を持ち、目的のためなら金に糸目をつけない藍と、節約第一で藍のやり方に目を回しながらも、そのノウハウを得ようと必死で食らいついていくみちる――考え方や境遇もまったく違うふたりのやりとりがおかしく、シリアスな物語にコミカルな味を加えています。しだいに、師弟に近いふたりの関係は、姉妹や家族のような愛情を帯びたものになっていくのですが、最終的に辿りつく泥沼の関係性が大きなインパクトを残す作品でした。同著者の『うらんぼんの夜』が気に入った方なら、間違いなくおすすめです。
『葬られた本の守り人』は、本を読む自由をテーマにした歴史小説。ヒトラーの独裁政権が始まる前夜から、第二次世界大戦末期にかけての、ドイツ、フランス、アメリカを舞台に、権力者の抑圧に対峙する3人の女性に焦点を当て、迫害から本を守るために結ばれていく女性たちの連帯、時代に翻弄される二人の女性のラブストーリーが描かれます。
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